2020年6月より改正食品衛生法が施行され、HACCPが義務化されます。全ての食品事業者が対象で、HACCPへの取組みは必須となります。今回は飲食店での注意すべき点、HACCPについてお話します。
目次
■飲食店は危険!?食中毒最多件数
実は食中毒事故の半数以上は飲食店で起こっています。厚生労働省が公表している食中毒統計データを見ていきましょう。
・食中毒発生場所割合
2018年は、食中毒事件数1330件のうち、飲食店が原因施設と判明した事件数が722件で、全体の54%と家庭を押さえて断トツの1位です。
・食中毒発生場所別患者数割合
また、患者数でも17,282人のうち、飲食店が8,580人で、全体の50%と、仕出屋を押さえて断トツの1位です。
・飲食店は食中毒発生リスクが高い!
平成28年の食料品製造業における製造品出荷額等は34兆7千億円、いっぽう、平成29 年の外食産業の市場規模は25兆7千億円です。一概に比較できませんが、売上に対しての食中毒発生リスクが、食料品製造業に比べ、飲食店がかなり高いことが分かります。飲食店は収益性が低く、食中毒が発生した際のコストが吸収できないということです。
衛生管理を怠ると、売上に大きな営業を与えるかもしれません
食料品製造業は、衛生管理にコストをかけて安全・安心な食品を提供しますが、飲食店は、衛生管理にコストをかけず、結果的に危ない食品を提供し、食中毒を発生させ、自ら経営を傾かせているとも言えます。
■食料品製造業と飲食店の違いは?
同じ食品を取り扱う食料品製造業と飲食店とでは、どんな違いがあるのでしょうか。
・意識の違い
食品衛生・食品安全にかかる意識の違いです。その結果、かけるコストも組織構成にも違いが出て、食中毒事故の発生件数の違いに繋がっていると思います。
食料品製造業の場合
食料品製造の場合は、流通小売りからの食品安全要求がそもそも高いです。長年鍛えられた結果、食品安全に対する意識が高くなったという側面があります。一般的に、流通小売りの品質管理担当者は、新規の取引先メーカーに対して監査を行い、自社の取引条件を満たす衛生管理レベルを要求します。
飲食店の場合
飲食店の顧客は一般消費者であり、継続的な契約関係はなく、消費者の意識は移ろいやすいです。また、消費者は厨房の中を直接見る機会がないので、食品安全衛生に対する外的要求としては、実はそれほど高くないのです。
- 食品安全衛生に対する最新動向、基本的な知識が少ない
- 外部から客観的に見られるという機会が少ない
この2つによって意識の低下に繋がっていると考えられます。しかし、飲食店も食料品製造と同様に、今後は一般消費者という顧客に食品安全衛生の要求事項を客観的に求められる時代が来ます。
■HACCPが飲食店の新たな格付けになる
改正食品衛生法が2020年6月に施行され、本格的にHACCPが義務化されます。飲食店の場合は基本的に、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」を参考にHACCPを実施することになります。
・一般消費者はどこで判断する?
訪れた飲食店が、HACCPに沿った衛生管理を実施していることや、購入する食品原材料等がHACCPに沿った衛生管理の下で製造、加工されたことを、一般消費者はどう判断したらいいのでしょうか。
【厚生労働省の回答】
- 店舗のよく見える場所に衛生管理計画の写しを掲示する
- 事業者団体が自主的な取組み(HACCP認証)を表示する
事業者団体の自主的な取組みの表示=認証マークなどを掲示する方が現実的でしょう。一般消費者は、衛生管理計画など細かくて読みません。一目で良否を判別できるマーク、格付けマークが必要です。
・お店のサイトで衛生管理状況が分かる!?
安全・安心情報の提供方法の一つが、先程の衛生管理の格付けマークです。このような格付けマークが、店頭やサイト内に表示される時代が来ると思います。これにより、一般消費者に対して、食の安全・安心を分かりやすく客観的に伝えられるようになります。飲食店経営者の食品安全衛生に対する意識を高くせざるを得ない時代となりますね。
■消費者から選ばれる飲食店になるには
消費者から選ばれる飲食店になるためには他店との差別化が必要です!
・衛生管理の「見える化」
提供する料理の美味しさ、価格満足度、お店の雰囲気、映える料理であることに加え、例えば、月1回の自主的な細菌検査を実施し、自社の食品衛生管理の状態を見える化しましょう。組織自らの積極的取組みは、食中毒リスクを低減させ、同時に衛生管理の格付けがされれば、HACCP義務化で「業界団体が作成した手引書」以上の取組みをすることで、差別化になります。
・細菌検査で食中毒予防
既に実施済みの店舗も見受けられますが、細菌検査は食中毒予防の基本的な検証手段です。日々の食品安全衛生管理の取組み成果が、細菌数という客観的な数値で評価できます。菌数が多ければ重点的に除菌し、少ない菌数であれば、それ以上の除菌は不要であり、費用対効果を最大限に発揮することができます。細菌検査は、購入する食品原材料の受入検査にも使うことができ、食品安全品質上の優良なサプライヤーを選択することもできます。
顧客からの信頼を得て、固定客の獲得に繋がる
対応が遅れれば、その他大勢と同じ管理水準でしかなく、先行者利益は得られません。個人経営はもとより、複数店舗を持っている飲食チェーン店は、一つの店舗で出した食中毒事件が他店舗のブランドも毀損することに繋がります。飲食チェーン店は特に、早急なHACCP運用、細菌検査、及びマネジメントシステムの構築、運用が望まれます。